2006年11月16日

飲酒運転と社内の懲戒の限界

福岡で飲酒運転の事故があって以来、企業でも社内規則で厳罰化しようという動きがあるわけですが、しかしどの程度までできるものなのか、法的な側面から少々気になることがありましたので調べてみました。

酒気帯び運転についての自治体などの組織内での懲罰強化は、盛んに報道されていますが、議論は必ずしも強化一辺倒ではなく、一時的な世間の風潮によって、いわゆる「罪」と「罰」のバランスがとれなくなることについて、疑問の声も根強くあります。

NO飲酒! 「即免職は行き過ぎ」兵庫県知事発言に波紋

「職員を一律に免職にするのはいかがなものか」。自治体の飲酒運転厳罰化について、井戸敏三・兵庫県知事の発言が波紋を呼んでいる。静岡県の石川嘉延知事も「オートマチック(自動的)に免職というのはいかがなものか」と疑問を投げかけた。一方、福岡市職員による幼児3人の死亡事故以降、各地の自治体で「原則免職」の厳罰化が広がり、考え方の違いが浮かび上がっている。


この疑問は法の考え方からすればもっともなものであり、度を越えた懲戒や合理性のない懲戒は、労働者の人権に関わる問題でもあります。
他方、厳罰化支持の根拠としては、「酒気帯び運転は100%故意犯であり、厳罰化が効果的な抑止力となる」という考え方が根底にあると思われます。ただ「酔っ払いほど酔っ払いの自覚がない」という側面もあるので、実際には「100%故意犯」と言い切るのは難しく、これは個別に判断する以外にはないでしょう。

また、今問題として取り上げられているのは自治体や官公庁などの公務員のケースが多く、もともと公務員はスト権がないなど民間の労働者とは法的な位置づけが異なるので、公務員の厳罰化をそのまま民間に持ってくるのも難しく、民間企業での懲罰強化について労働法上どこまでできるのか、注意する必要があります。
実際、会社決定の懲戒を無効とした裁判事例は日常的にあります。(いわゆる「懲戒権濫用の法理」)

根拠となる就業規則に具体的な記載があれば、「労働者側も同意した」という契約的な性格を持つため、大きな問題にはならないと思いますが、そもそも処分は会社の自由裁量で決められるものではなく、特に記載が一般的・抽象的であったり、処分の選択に幅があったりするような場合は、「客観的に相当な処分」である必要があります。
(広島高裁 S34.05.30 「日本化薬厚狭作業所事件」、大阪地裁 S36.05.19 「国際電信電話事件」)

一方で「客観的に相当」とは逆行しそうですが、そもそも懲戒の論理というのは「社内外での非行によって会社に迷惑をかけた」という点にありますので、飲酒運転が注目されているといった時代背景や、例えば公務員・運送業界・自動車業界などの飲酒運転が注目されやすい職種・業種の場合には、そういう点を加味してもよさそうに思えます。



<関連>

飲酒運転を就業規則で懲戒処分の対象とする企業が増えてきている(人事診断士さん)



<追記>

栄光綜合法律事務所のメールマガジン「ビジネス法務最前線!」で、飲酒運転の懲戒について書かれています。

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posted by JUN at 01:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働安全衛生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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