2007年08月22日

「戦略的健康管理」のススメ

「発想の転換」が必要かな、という感じがします。




定期健診でウエスト測定 厚労省案に経団連反発

厚生労働省が企業の定期健診項目の見直しを検討していることに、日本経団連が反発している。「会社は社員の肥満の責任まで負えない」(幹部)とし、内臓脂肪をめぐり官民がせめぎ合っている。


いわゆるメタボリックシンドロームの問題なのですが、定期健診の項目に入れるかどうかで、もめているようです。ですが、労働安全衛生法を見るとわかるように、会社の定期健診のそもそもの趣旨が、危険・有害な作業であるとか、職業病であるとか、やはり仕事がらみのものですので、日本経団連側の「会社は社員の肥満の責任まで負えない」というのはもっともな主張で、厚労省の悪ノリという感じもしなくもないです。もっとも、メタボリックシンドロームに関しては、まだ医学的根拠が不確かなようなので、あまり騒ぎすぎるのもどうかと思います。

しかし、今回は見方を変えてみようと思います。

今、アメリカの自動車業界は、なかなか大変なことになっていまして、いわゆる「ビッグ3」(GM、フォード、ダイムラークライスラー)は大リストラの真っ最中です。ダイムラークライスラーは北米部門(旧クライスラー社)売却なんて噂もありますし、GMもデルファイという関係の深い部品会社が倒産(再生中)してしまい、世界一のGMも連鎖倒産がささやかれたほどです。原因は、原油高で燃費の悪いアメ車が売れなくなったというのがやはり大きいでしょうが、もうひとつ、アメリカの企業を苦しめているものに医療費負担があると言われています。

WSJ-GMによるクライスラー買収は非合理的=市場関係者

GMもクライスラーも、北米での生産能力は過剰で、必要以上のディーラーを抱えており、労働組合に加入している従業員と退職者向けの医療保険費用は巨額なうえ増え続けている。


つまり、従業員の待遇というのは、昔と比べれば今の方がいいに決まっているので、そうやってかつて比較的良い条件で入社した人たちが、ある程度の年齢になって、あれこれ病気が多くなってくると、会社側の医療費負担も増えてくるわけです。景気の良い時期なら負担増もある程度吸収できるのでしょうが、景気が悪いとそういう負担がズシンと響いてくるということです。
これは対岸の火事ではなくて、アメリカは日本よりも経済発展が早かったですから、早く表れただけの話で、遅かれ早かれ日本も同じ状況になると言われています。

病気になれば、本人や家族が大変なのはもちろんですが、病気の人が多ければ、仕事に穴が開くし、医療費負担が増えるし、会社にとっても大変です。「チャングム」でも「貧乏人は病気の治療より予防」とチャンドク先生が言っていましたが、特に生活習慣病は長い間の積み重ねで一朝一夕に対策はできませんから、経営戦略の将来のコスト抑制という観点から、比較的余裕のある今のうちに、従業員の健康管理というものを、もっと踏み込んで行ってもいいのではないかと思います。

例えば、アメリカでは、、喫煙習慣のある人を強制的に禁煙プログラムに参加させたり、仕事中のみならずプライベートも含めて、禁煙しない人の査定を下げるなどということをしている会社もあると聞きます。日本ですと「会社が従業員のプライベートに踏み込むなんて!」と非難轟々になりそうですが、従業員が病気になることで会社にこれだけの不利益があるわけですから、会社が会社に不利益を与える(しかも自ら積極的にそういう行為をする)従業員の評価を下げることは、ある意味では理にかなっていると思います。

もちろん、これはあくまで企業の経営戦略の話であり、法律で決めるのは論外です。

「戦略的健康管理」という意味で、もうひとつ触れておきたいのが、「産業医の使い方」です。
産業医というのは、労働安全衛生法で配置人数が決められていて、事業所の従業員数が1000人以上(または500人以上+特定の作業がある場合)ですと「専属」の産業医を置かなければいけません。これは「人数が増えればそれだけ産業医も忙しかろう」という趣旨で、弊社でも「専属」が必要な事業所がありますが、実際は趣旨に反して、いわゆる「専任」状態にしてしまうと産業医の仕事がなくて困ってしまうので、法律用語の「専属」の解釈に悩むくらいです。

ですが、これも考えようで、いずれにしても高いお金を払って、法律で決められている人数を置かなければならないのですから、「仕事がない」なんて言わずに、単に病院のまねごとをするのではなく、専門家として健康管理・生活指導の最前線に立たせて、「戦略的健康管理」の中で役立てればよいのではないかと思います。

at 2007-02-23 22:16:25


【2007/08/22追記】

○ 戦略的健康管理の中の「保健師」

加えて、戦略的健康管理の中で注目すべき存在として、「保健師」があります。看護師などとの違いがわかりにくいですが、当社に常駐している看護師に聞いてみると、保健師と看護師の違いとして、保健師は単独(医師の指示不要)で保健指導ができる点があるとのことです。

そうであれば、専属にせよ非専属にせよ産業医を機能させることが難しい現状で、保健師を健康管理の指導の中核に位置づけるのも有効であると考えられますが、同看護師によると、看護師が保健師の資格を取るためには、

 ・再度学校に入り直さなければいけない
 ・成績優秀等の推薦状が必要(?)
 ・養成機関が少ない

など、障害が多いとのことで、政策的に保健師を増やそうという動きもあるそうですが、ベテランが多い企業の産業看護師には、敷居が高そうです。

新人の看護師は保健師の勉強より病院での実務経験を選ぶ人が多いでしょうから、少なくとも、看護師が必要を感じたときにはいつでも保健師の勉強ができるような、環境の整備を望みたいところです。

posted by JUN at 01:16| Comment(4) | TrackBack(0) | 労働安全衛生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
喫煙者の癌、肥満者の糖尿病や心疾患を治療していると、"なんて医療費の無駄遣いをしているのだろう"と思います。

ただ、これらの啓蒙を会社や病院で行うだけではなく、社会全体として知識の習得が必要不可欠と考えます。義務教育の時代からかなりの時間を割いて本気で教える必要があるのでしょうね。

Posted by フォレッチ at 2007年02月24日 07:55
フォレッチ、ありがとう。

> "なんて医療費の無駄遣いをしているのだろう"

「今、一生懸命治療をしても、体質が変わらない限り、どうせまた戻ってくるんだろうな」みたいな、そこに穴の開いたタライに水を注ぐような心境ですか?
あるいは「本人に予防の意志がない、自業自得だ」という心境ですか?

でも、フォレッチはまだ若いからアレだけど、こういう患者さんって、開業医さんにとってはけっこうありがたい存在だったりして?(苦笑)

最近特に感じるのですが、人間ってどんなに環境が整っても、自分自身が必要を感じない・理解していないことは、なかなかやらないものです。
なので、必要性を痛切に感じているであろう、現場を知るお医者さんに教育の場に立ってもらうことを、重視しています。
ターゲットは、そろそろ年齢を自覚し始めて、しかしまだある程度軌道修正が利くであろう30代がよいと思いますが、どこをターゲットにするにせよ、どのように自らに必要性を感じさせるかがポイントになるのではないかと思いますね。
Posted by JUN at 2007年02月24日 16:09
健康管理の責は誰にある?の類はところどころで聞きますが、医者の立場からの意見なら
個々人以外の何者でもない
と思います。

医者がリーダーシップをとって、とか、会社、保健所などの意見も聞きます。
実際、外来では自分の外来の患者さんの包括的な健康管理まで手を広げてはいますが、言ってしまえばただのサービスです。
僕ら医療従事者や会社、保健所においてでさえ、その役割は"啓蒙"以上の役割はないと認識しています。

喫煙者、メタボリックシンドローム患者の健康への影響はマススタディで証明されています。そしてそれは周知の事実として認識されているはずです。
それを回避することを怠っていた人間に対しては、それに付随する疾病に罹患した際に長い時間と労力、資金を裂いてまで治療する意味はあるのか?と思います(こんなことは公然とは言いませんが、自分の好きに生きて好きに死ぬから好きにさせてくれと言う人は、死ぬ瞬間も含めて一切病院には受診しないでくれと本気で思います)。

なお、体質の改善を希望し、そのための道標を希望して相談しにくる患者さんに対しては120%本気で相談に乗ります。
僕らの仕事はそんな仕事です。

追記になりますが、新米の臨床看護師の知識としては周囲を"啓蒙"させることができるほどのものではありません。
僕は糖尿病教室を担当していますが、糖尿病について患者に説明できる看護師はかなり上にならないと難しいです。
まず看護師として修練にはげみ、看護師としての立場から患者とその生活環境を真に把握できるほどになってから、はじめて一段階上の資格をとる意味がでるのではないでしょうか。
なお、産業医の資格については1〜2週間の集中研修でとれます。それ自体にはあまり意味がありません。
また、産業大学出の産業医と、産業医の資格をもった一般勤務医でもその能力とモチベーションに隔たりがあります。つまり産業医全てが同じ能力と考え方のもとに成り立っているわけではないのです。
産業医の"健康管理"は、主に労働環境に伴う健康障害に向けられます。
個々人の、生活習慣病などに対しては(もちろん啓蒙に尽力はしますが)機能しがたいということもご理解ください。

自分が"生活習慣病に対する啓蒙"の立場になっていろいろと経験して来たものだから、強い語調になっているのはご容赦ください。
健康は自分で管理するもの。周りはそれを補助するもの。
本来は、健康管理を怠り招いた損失は、周りが負担や保障するべきではなく自分で負うべき。
と僕は考えます。
Posted by フォレッチ at 2007年08月22日 13:10
フォレッチ、ありがとう。

> 健康管理の責は個々人以外の何者でもない

うんうん、そのとおりだと思います。

ただ、「自己責任」で片付けるのは、逆の意味で違うように思います。
記事本文でも書いたように、健康管理を怠った結果は、家族はもちろん会社や職場の同僚などにも大変な迷惑をかけることになります。もはや「自分がよければそれでいいんだ」というレベルの話ではなくなっています。

> 死ぬ瞬間も含めて一切病院には受診しないでくれと本気で思います

うん、気持ちはわかりますが、現実問題としてそれはできないわけです。制度である以上、健保だってお金を出さないわけにはいかない。病院が患者を見捨てることも結局社会的に許されない。

「健康管理は自己責任」
→「健康管理を怠って病気になる人は迷惑」
→「病院に来ないでほしいと思う」
→「でも制度だから仕方がない」

置かれた環境が変わってしまったのに今までと同じことを続けようとするから無理が出るのであって、そんな、経済的にも関係者の精神衛生的にも良くない、負のエネルギーに満ちたむなしいことを延々と続けるくらいなら、その前にもっと健康管理を踏み込んでやったほうがいいのでは?というのが、記事本文の内容です。最初に書いた「発想の転換」とは、そういう意味です。

> まず看護師として修練にはげみ・・・

その人に合ったステップアップの仕方があると思いますが、少なくとも看護師さんが必要を感じたときに勉強できるような制度になっていない・向学の意欲が活かされないのは不合理だと思います。

> 産業医の"健康管理"は、主に労働環境に伴う健康障害に向けられます

もちろん承知の上で書いています。産業医個人の能力や意欲の問題は、まぁそれはそれとして、気になったのはあくまで「産業医の『使い方』」です。主体は会社です。

「あとは先生、よろしく」って言ったって、産業医も困ってしまうだろうし、意識の低い従業員には「馬の耳に念仏」でしょう。会社側が舞台から脚本まで用意して、チケット配って、従業員もやらざるを得ない状況ができて、初めて産業医の存在が活きてくると思います。
Posted by JUN at 2007年08月27日 23:35
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