2015年08月12日

東京オリンピックのエンブレム問題

<おことわり>
知的財産の実務からはもう10年以上離れていますので、法改正や判例等の情報のアップデートがされていなかったり、記憶違いがあったりするかもしれません。ご承知おきください。




東京オリンピックのエンブレム問題については、どうもあまり問題が整理されないまま、乱暴な議論がされているように思います。

テレビで弁護士さんがコメントを求められても、必ずしも知的財産に明るい弁護士さんばかりではありませんし、限られた時間の中でわかりやすく説明するのも難しいですが、複合的なだけに本質的理解を問われる興味深い問題だと思います。

出てくる情報を、今後こういう観点で見ればわかりやすいのではないかと、論点整理を試みてみました。



@今回のエンブレムに関わりそうな法律には、「商標法」と「著作権法」がある

これはまず前提ですね。同じようなものを対象にしているように見えますが、それぞれ異なる目的で作られた法律で、権利に対する考え方も、類似に対する考え方も、実は少し違います。それは後述しますが、両法の第1条に書かれている目的だけ、確認しておきます。

○商標法
第一条  この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。


○著作権法
第一条  この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。




A商標法におけるロゴは「選択物」であり、著作権法におけるロゴは「創作物」である

商標法の第1条を見てもわかるように、商標法にはロゴの創作という面にはスポットが当たっていません。ロゴはそれを使用する事業者と消費者のものであり、ロゴ自体は「創作するものではなく選択するもの」という考え方を取りますので、特許などと異なり、創作に関する部分を問いません。

他方、著作権法における著作物は「思想又は感情を創作的に表現したもの」(第2条)ですので、ロゴの保護すべき価値があるとすれば、それはその創作的表現にあると言えます。

まとめると、仮に他人の創作したロゴを商標登録しても商標法上は何の問題もないが、商標登録は創作に関する部分を問わないので、逆に言うと商標登録は著作権法上の問題を何も解決しない、ということになります。



B商標法と著作権法では、「似ている」の基準が少し違う

第1条の目的にもあるように、商標法では、ロゴを使用する事業者と消費者との関係が重視されます。したがって商標法における「似ている」の判断も、「消費者から見て間違えやすいか」が重視されます。

著作権法では、創作する側から見た創作的表現が似ているかが重視されることになります。ただし保護されるのはあくまで表現であり、創作したアイデア自体は保護対象とはなりません。



C商標権は「絶対的」で、著作権は「相対的」である

これも目的から導くことができますが、商標権では、その権利の範囲内で、似ている他人の商標を、自分の商標を真似したかどうかを問わず排除できます。つまり消費者から見て間違えやすいかどうかが問題なのであって、真似したかどうかは問題ではない、ということを意味しています。

著作権では、権利侵害を認めてもらうには、他人の著作物が自分の著作物に「依拠」していることが必要になりますので、自分の著作物とは無関係に偶然似てしまった著作物が併存することが起こり得ます。これは創作側だけの問題なので商標と異なり併存による害がないことと、同じ創作の権利である特許などとも異なり著作権は権利の発生に方式を問わない(特許や商標のような出願手続や公表制度がない→他人の権利の存在を知る術が担保されていない)ためであろうと考えられます。



私なりの結論はあえて書きませんが、こんな観点から報道や意見等を見てみると、またいろいろわかることもあるのではないかと思います。


posted by JUN at 23:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 知的財産 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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